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上前 淳一郎
(週刊文春 1997年9月18日号より引用)

週刊文春 1997年9月18日号

ぴかぴか度を測る
床の掃除といえば、掃く、拭く、磨く、が手順。それ以上はやりようがなさそうですね。
 ところが最近、大手のスーパーやコンビニエンスストアでは、そこへ「測る」という手順が加わってきた。
「床に光沢計をあてて、ぴかぴか度を測るんです。きれいにしよう、という掛け声だけではなくて、実際どのくらいきれいになっているか、数字で示すのですよ」
と業界に先駆けて光沢計の採用に踏み切ったセブンイレブン・ジャパンの話だ。
この光沢計、テレビのリモコンを大きくしたような形をしている。
ポリッシャーが回転ブラシでワックスがけした後の床に、これをあててみる。
「光沢計から出た光がどのくらい反射されてくるかで、ぴかぴか度がわかる仕組みです」
 光の80パーセントが反射されてくると、80という数字が光沢計に表示される。
「80ですと、鏡のよう、とまではいきませんが、天井の蛍光灯が床に映ります。ぴかぴかだな、と目で見てもわかります」
 60に落ちると、薄汚れて見える。
「80になるまで磨きましょう、と具体的に店を呼びかけることができるわけです」
 この光沢計、安いもので45,000円、高いのは125,000円もする。
 それを同社は、全国に約7千ある店舗のほとんどに備えつけている。安くはない投資だ。

 なぜ、そこまでやるようになったかといえば、
「お客様は、きれいな環境で買い物したい、という気持を潜在的に持っておられるものだからです」
 あの店は床がきれいだから行こう、と思う客はいないだろうが、ぴかぴかなのと薄汚れているのとでは、やはり印象が違う。
「それに、床が光っていますと、従業員にもやる気が出るんです」
 これじゃ棚もきれいにしなきゃいけないな、商品の並べ方も乱雑にはできないぞ、という気持になってくる。
「つまり、床をきれいにすることで、商品管理のレベルが向上する、という副次的効果があるのです」

「いやあ、うちの光沢計がスーパーやコンビニに売れるとは、ありがたいことですが、まったく意外でしたね」
 と、製造、販売をほぼ独占している京都の堀場製作所で聞いた。
 もともとは工業計測器で、車のボディ塗装の光り具合をチェックしたりする目的で開発された。
「やっぱり、スーパーやコンビニに買い物に来るお客さんが、便利さの上に清潔さも求めるようになってきたからでしょう。時代のせいですなあ」
 なんとか客の気を引きたいスーパー、コンビニ業界の激烈な競争は、ついに床にまできた。