多変量解析PARAFACを用いたスペクトル分析と成分の同定について

レイリー散乱のマスキング,水ラマン光散乱の除去,水のラマンや硫酸キニーネによるノーマライゼーション,インナーフィルター効果の補正や装置固有のスペクトル関する一連の補正は,AqualogのソフトウェアのEEMプロセシングツールによって簡単に実行することができる。スペクトルの補正とEEMプロセシングの目的は,標準物質のライブラリーを基にしてCDOM成分をより簡便に同定や定量分析を行うことにある。

我々はCDOM分析においてPARAFACと呼ばれる多変量解析に注目し,その解析法を採用している[1,3-5]。Aqualogのソフトウェアを使えば,CDOM分析用に開発されたEigenvector Research社のPARAFACを使ったデータプロセシングのためのEVSoloソフトに直接アクセスすることができる(MatLabソフトにもアクセスすることができる[4])。

PARAFACモデルの利点はEEMデータを評価する能力を持ちながら,統計的な有意性を高めるために多数のEEMデータ(しばし
ば数百ものデータ)を同時に処理できる点にある[3-5]。

フミン酸やフルボ酸,トリプトファン(タンパク質),チロシン様態(フェノール性αアミノ酸),キノン化合物,多環式芳香族炭化水素等の成分を特定することができる。またCDOMが微生物由来のものなのか,海洋性のもの,または陸生のものから由来するのか等も特定することができる。水のリサイクル処理工程,排水,河川,海洋,河口潮流におけるCDOM成分を診断する際には化学的,物理的な水質指標としてPARAFAC解析が使われはじめている[6]。

様々な水質分析アプリケーションに対するスタンダードなモデリングのテクニックとしてPARAFACによる解析を以下のように提案する[1,14]。

おわりに

将来の水質分析アプリケーションと水質評価項目としてのCDOMの国際標準化について

CDOMを3次元蛍光分析で評価するアプリケーションにおいて,EEMデータを装置間,研究室間で比較できるように蛍光分光装置のキャリブレーションやスペクトル補正に関して鍵となる論文や,国際標準化のための書籍が出版されている。NIST研究者らによる最近の出版物では,特にEEM分析データの補正の重要性が強調され,蛍光のキャリブレーションや補正のため最近リリースされたASTM標準ガイド(E2719)[9]に関してや,CDOMのEEM分析,装置,IFE補正に関して記載されている[2],さらに一連の標準物質を生成し評価することにおいて使用される高精度の蛍光分光測定装置のバリデーションに関しても記載されている[7]。

さらに最近の論文では,CDOMIHSS標準サンプルに対する主な国際的な研究室間におけるデータ比較結果を概説している。この研究は,研究者とUnited State Geological Survery(USGS)により主導され,アメリカの地球物理学学会[8]が主催した2008年のチャップマンコンファレンスの成果として注目された。CDOMの潜在的なアプリケーション展開として,調査報告書では水のリサイクルの全過程での水質のモニタリングに採用できないか検討され[14],さらに別の報告書では環境水や排水の分析の指標に採用できないか検討されている[1]。

CDOMの蛍光分析で評価することや3次元蛍光法の活用は学術分野および政府機関での水分析の研究や,地方自治体や工業での水質モニタリングにおいて重要な役割を果たすことが期待される。

HORIBAグループのHORIBA Jobin Yvon社では,EEM分析を使ったCDOM評価に特化した蛍光測定装置と多変量解析PRAFACソフトウェアを組み合せた提案を行うことでこれらの市場ニーズにいち早く対応しようとしている。今後は装置やソフトウェアをより使いやすいものにしていきながら,CDOMの標準化や規制を推進していくことで水質分析におけるEEM分析の将来性を高めていきたい。人類にとってかけがえのない資源である水,その水質におよぼすCDOMの影響を理解するために分析を通じた貢献が期待されている。

Readout No.41  September 2013


当アプリケーションノートPDF版はこちら
蛍光分光装置Aqualogと3次元蛍光法による水中の溶存有機物の評価


Adam M. GILMORE
HORIBA Jobin Yvon Inc.
Flourescence Product Division
Ph. D.

濱上 郁子
Ikuko HAMAGAMI
株式会社 堀場製作所
営業本部
大阪セールスオフィス

参考文献

[ 1 ] Hudson, et al., River. Res. Applic., 23, 631(2007)
[ 2 ] Holbrook, et al., Appl. Spectroscopy, 60, 7, 791(2006)
[ 3 ] Stedmon, C. A., S. Markager and R. Bro., Mar. Chem., 82, 239(2003)
[ 4 ] Stedmon, C. A., S. Markager and R. Bro., Limnol. Oceanogr. :
Methods, 6, 572(2008)
[ 5 ] Cory, R. M., and D. M. McKnight, Sci.Technol., 39, 8142(2005)
[ 6 ] Cory, et al., Limnol. Oceanogr.: Methods, 8, 67(2010)
[ 7 ] DeRose, et al., Rev. Sci. Instr., 78, 033107(2007)
[ 8 ] Murphy, et al., Environ. Sci. Technol.(, in press)(, 2010)
[ 9 ] Paul C. DeRose and Ute Resch-Genger,, Anal. Chem., 82, 2129 (2010)
[10] Qun Gu and Jonathan E. Kenny, Anal. Chem., 81, 420(2009)
[11] Lakowicz, J. R., Principles of Fluorescence Spectroscopy, 3rd ed. Springer Science and Business Media, LLC: New York(, 2006)
[12] Tobias Larsson, Margareta Wedborg, and David Turner, Anal. Chim. Acta, 583, 357(2007)
[13] B. C. MacDonald, S. J. Lvin, and H. Patterson, Anal. Chim. Acta, 338, 155(1997)
[14] Henderson, et al., A review. Water Research, 43, 863(2010)
[15] 眞家永光, 水環境中の溶存有機物の光学的特性を用いた質のモニタリング 農業農村工学会大会講演会講演要旨集:52(- 2009)