4. 定常蛍光スペクトル測定技術



4.1 蛍光強度測定の用途は?


蛍光強度は蛍光分子の濃度に依存するため、標準的な検量線を容易に生成することが可能であり、この曲線を用いて未知の試料内の同じ分子の濃度を特定することができます。 これは、蛍光消光実験で有効です。また分子がタンパク質のような物質と相互作用する様子を調べるためにも作成され、タンパク質の構造変化、タンパク質フォールディング、タンパク質アンフォールディング、タンパク質会合およびタンパク質解離の体系的な追跡調査にも使用できます。 蛍光強度測定の一例として、濃度と蛍光強度の相関が既知の蛍光体の検量線を5つの既知の濃度の溶液を使用して作成しました。この検量線を1次多項式に当てはめて、これを用いて未知の溶液内のビーズの濃度を算出しました。

図7:上:FluoroMax-4蛍光分光光度計で測定した溶液中の異なる濃度の蛍光体の検量線に関する発光強度の表。左下:同蛍光体のスペクトル。右下:検量線に線形的に当てはめた強度vs.濃度。

4.2 温度はどのように蛍光性に影響を与えるか?


温度は、蛍光強度に影響し、場合によってはスペクトル波長やスペクトル形状にも影響します。蛍光発光体のモル吸光係数(または放射速度定数)は通常、温度影響は小さいですが、振動カップリングで支配される無輻射速度定数は、強い影響を受け、温度上昇と共に増加します。このことは、一般に、蛍光が温度上昇と共に減少することを意味します。同様に、衝突消光も温度と共に増加し、蛍光強度を低下させます。 蛍光性は、発光分子の周囲の分子の影響を強く受けます。また、液体窒素または液体ヘリウムを用いて極低温で測定した蛍光体は、励起スペクトルと発光スペクトルにおいて、衝突消光が減少し無輻射速度定数が低下し蛍光発光強度が上昇します。 ポリアロマティックハイドロカーボンなどの分子(すなわち、アントラセン、ナフタレン、ピレン、ペリレンなど)には、室温でスペクトル中に現れる振動ピークがあります。77 Kの液体窒素温度では、これらの蛍光ピークはさらに構造化されるため、りん光ピークを測定できるようになります。液体窒素デュワーサンプリングアクセサリで298 Kと77 Kの両温度において測定したスペクトルを示します。

図8:温度が上がると蛍光スペクトルに熱の影響が拡がり、りん光消光を増加します。メタノールに溶解したナフタレンのスペクトルを室温(298 K)と液体窒素デュワーアクセサリ内(77 K)でHORIBA Fluorolog-3を用いて測定しました。低温スペクトルは、強い振動構造と長い波長のりん光を示しています。りん光ピークも、分かりやすくするために10xの倍率で示しています

4.3 溶媒のラマンピークを蛍光スペクトルから取り除く方法は?


ラマンピークは蛍光スペクトルに頻繁に現れ、特に蛍光強度が弱い場合に際立ってしまいます。ラマンピークを取り除くには、ブランク溶媒のスペクトルを試料と同じ条件下で測定し、この「ブランク」スペクトルを蛍光試料のスペクトルから差し引きます。ラマンピークは励起光のエネルギーに関連する振動現象なので、その位置を制御することができます。ラマンピークは、励起波長が変化すると、励起波長との波長の隔たりが変化します。そのため、ラマンピークが試料の蛍光スペクトルと干渉している場合には、必要に応じて励起波長を移動させてラマンピークをわずかにずらすことができます。

図9:赤色の小球体においてブランクが差し引かれた発光スペクトル(赤色)(6.7x104ビーズ/mL(lexc = 542 nm)にて):ブランクが差し引かれていないスペクトルは緑色です。ここで、OH屈曲モードと延伸モード(3380 cm-1と1700 cm-1に対応)の2つの水のラマンピークが、ブランク溶媒のスペクトル(橙色)で示され、571 nmにおける発光ピークをより見やすくするため試料の蛍光スペクトルから差し引かれています。全ての測定は、蛍光分光光度計FluoroMax-4で行いました。

4.4 タンパク質分析における蛍光スペクトルの使用法は?


蛍光スペクトルは、タンパク質フォールディングまたはタンパク質アンフォールディングにおける変化の追跡にも使用できます。これは、1 µM BSAの溶液中におけるトリプトファンの蛍光スペクトルが温度の上昇と共にどのようになるかを示す一例です。これらの曲線は、温度を5~70°Cに変化させた場合を示しています。温度が上昇すると、強度が低下してスペクトルが短い波長へとシフトすることが分かります。異方性または時間分解異方性を用いて、タンパク質のサイズや形状および挙動に関する情報を得ることができました。

図10:左:蛍光分光測定装置QuantaMasterを用いたウシ血清アルブミン(BSA)の熱変性によるスペクトルの変化。右:BSAの基本構造(Bujacz, 2012)。

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