5. 蛍光異方性(蛍光偏光)とは?


蛍光異方性(蛍光偏光)は、吸光と発光間の空間内での分子の配向転向の測定法です。吸光と発光は、励起光と放射光の電磁波の電気ベクトルに対する分子の双極子の空間的整合を示します。言い換えると、蛍光体が垂直偏光で励起され、蛍光体分子が動かない場合、垂直偏光の蛍光強度に変化はありませんが、分子の動きが速いほど、垂直偏光の蛍光強度は弱まり、多くの蛍光が偏光解消されます。動きが遅いほど、偏光を保ち蛍光強度が維持されます。
図11:異方性の方程式

この情報を使用するために、偏光子を蛍光分光光度計の励起光路と放射光路に置きます。上式の強度の比を使用して異方性が計算されます。IVVは、検出した発光の垂直偏光励起と垂直偏光による強度を示します。IVHは、励起に対して垂直偏光子を使用し、発光に対して水平偏光子を使用したときの強度を示します。Gは、計器による2つの直交ベクトル配向の差動伝送の補正として使用される格子係数です。

図12:0度(垂直、V)配向と90度(水平、H)配向に回転させた励起偏光子と発光偏光子を用いた蛍光異方性実験の説明

実験の仕組みについてですが、まず、垂直配向にセットした励起偏光子と、同様に垂直配向にセットした発光偏光子で、蛍光を測定します。その強度をIVVとして異方性の方程式に代入します。そして、水平配向にセットした発光偏光子で測定を繰り返し行い、その強度をIVHとして方程式に代入します。 異方性の方程式は係数2を含みますが、これはVVzベクトルからの偏向が投影される2つの直交する配向HxとHyがあるためです。 1つの水平要素のみを考慮した2次元偏光パラメーターを説明するために、関連表現として、偏光度pがよく使用されます。この場合には、式にはIVHの乗数2がなく、pがrに代わります。


図13:異方性rと時間分解異方性r(t)を適用する際に有用ないくつかの方程式(Lakowicz, 2006)(Valeur, 2002)
次に、G係数は、HHとHVにおける強度を測定し、IHVとIHHをGの方程式に代入することにより算出されます。小文字「r」で示す異方性は、分子サイズ、分子拡散および分子粘性のインジケーターとして頻繁に使用されます。

図14:時間分解異方性の測定

5.1 蛍光異方性の用途は?


ここに、異方性の結果を分析する上で役立ついくつかの方程式を記しています。基本的な異方性の方程式については既に説明しましたが、時間分解異方性を使用すれば、全体的な蛍光減衰についても同様に計算できます。時間分解異方性からは再配向時定数を得ることができ、ペランの式とストークス・アインシュタイン・デバイの式を使用して拡散係数や局所粘性および分子体積といった特性を推定することができます。 これらは、タンパク質または分子結合、ポリマー凝集、および複雑な溶液や物質に関するその他の局所環境の研究などの用途においては、極めて重要な情報に対応します。 一例として、蛍光異方性で測定されるBSAの温度に依存するタンパク質アンフォールディングの挙動を明らかに見ることができます。この場合、固有のトリプトファン残基の異方性が使用されます。

図15:固有のトリプトファン残基の蛍光異方性により観測されたBSAタンパク質の温度誘導アンフォールディング

5.2 蛍光反応速度の用途は?


蛍光反応速度とは、経時的な蛍光強度の観測値のことです。ここでは、試料が単一波長で励起され、発光が経時的に単一波長にて検出されます。波長ペア測定は、レシオメトリック型指示薬を用いた測定や、基準値やバックグラウンドを同時に記録するために使用されたりすることがあります。 ここでは蛍光の経時変化を用いて反応速度を把握する例を示します。チアミンと水銀が結合してチオクロムを生成する反応速度は、使用するチアミンの濃度を変化させることによって求められます。それぞれの反応速度スキャンは、チオクロム生成反応について異なる反応速度を示します。

図16:左上:チアミンとHg2+のチオクロム生成反応。左下:チアミン標準試料の反応速度。右:4つのチアミン標準試料におけるチアミンからチオクロムへの転換に関する蛍光強度vs.時間のプロット。直線性は、各標準試料の反応速度が一定であることを示します。

蛍光反応速度は、ストップドフローと呼ばれる高速ミキシングアクセサリを用いて測定されることが多いです。ストップドフローでは、数ミリ秒のオーダーで2種類以上の溶液を混合するため、結合または反応は、拡散の影響を受けずにゼロに近い混合時間を記録します。 ここに、ANSと呼ばれる蛍光体のタンパク質BSAへの結合を示します。ANSの蛍光は結合により増加するため、結合の速度は蛍光反応速度を用いて測定することができます。この例では、BSAへのANSの結合が約400ミリ秒の短時間で生じています。

図17:左:ANSのタンパク質との結合を測定するBSAとANSのストップドフローミキシングにおけるANSの蛍光強度vs.時間。HORIBA FluoroMax-4で測定。右上:ストップドフロー高速ミキシングアクセサリ。右下:ストップドフローアクセサリの概略図。

5.3 蛍光計で試料温度を制御する方法


恒温水循環槽とペルチェ温度調節器は、蛍光分光光度計の試料の温度を制御する2つのアクセサリです。蛍光分光光度計システムの標準キュベットホルダーには、恒温水循環槽に接続できる液循環用の2つの接続部があります。これにより、−40~70°Cの範囲で温度を調節できます。 他の方法として、ペルチェ制御セルホルダーがあり、これは水槽よりも速い応答で、−25~105°Cの範囲で温度を調節することができます。 恒温水循環槽は、温度を設定して実験中にその温度を維持する必要がある場合には優れていますが、ある範囲の様々な温度における試料の測定や、温度変化に敏感な試料の場合には、ペルチェ温度調節器の方が適切といえます。また、液体窒素・ヘリウムクライオスタットの様々な機種も取り付けキットを用いて使用することも可能です。冷却に加えて、クライオスタットは試料を500 K以上に加熱することもできます。


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