蛍光分光光度計・蛍光寿命測定装置
6. 量子収率とは?
分子または物質のフォトルミネッセンス量子収率(PLQY)は、吸収した光子の数のうち放出された光子の数の割合と定義されます。このような蛍光体または蛍光分子の特性は、多くの重要な物質の分子の挙動や相互作用を理解する上で重要です。
同様に、電界発光量子収率(ELQY)は、放出された光子の数を装置の電子流で割ったものです。これは、照明、表示装置および光電材料にとって重要です。
- 図18:PLQY測定用に蛍光計にファイバー接続された積分球
PLQYおよびELQYが使用される物質は次の通りです。
- 光電池および太陽電池
- 新たなナノマテリアル
- ナノ粒子
- 量子ドット
- グラフェン/単層カーボンナノチューブ
- 照明および表示用材料(LED、OLED)
- 錯体化学物質
- 膜、コーティング
- 硬化ポリマー/ドープポリマー、ゲル、ハイドロゲル
- 塗料、コーティング、測色
PLQYを測定するには、相対法、蛍光寿命、および直接法(積分球)の3つの方法があります。
- 図19:電界発光は、LEDのような電源が供給された装置を試料トレイに嵌め込んで、積分球(左)を用いて測定することができます。中央:積分強度は、入力電圧または電流で測定できます。右:色は、球体内のスペクトルを測定することにより、CIE 1931座標にプロットできます。
6.1 量子収率を求めるための相対法の使用法は?
相対法では、対象の試料の特性に近い既知の発光特性と吸光特性、さらに既知のPLQY値を備えている標準試料を使用します。標準試料の吸光度と蛍光性を測定し、その後、対象の試料の吸光度と蛍光性を測定します。
以下の式を使用します。ここで、QFは未知の蛍光試料の量子収率、QRは標準試料の量子収率、IFとIRは未知の蛍光試料と標準試料のそれぞれの積分蛍光強度、AFとARは未知の蛍光試料と標準試料のそれぞれの吸光度値です。ただし標準試料の種類が限られているので、適用できるサンプルはある程度限定されます。
- 図20:左:既知の標準のスペクトルと比較することにより、未知(QF)の蛍光量子収率を計算するための式。 右:既知のPLQY標準と、それぞれの励起波長と量子収率の表。
6.2 量子収率を求めるための蛍光寿命の使用法は?
分子の量子収率を計算するために、蛍光寿命と消光剤の様々な濃度を使用する方法があります。
使用する右側の式において、τfは量子収率、kf、knr、ktはそれぞれ蛍光、無輻射失活およびエネルギー移動の速度定数、τfは試料の蛍光寿命です。PLQYは、FRETやシュテルン-フォルマー消光のような蛍光と競合する無輻射プロセスの速度定数で求められます。
- 図21:蛍光量子収率は、蛍光の速度定数(kf)、無輻射消散の速度定数(knr)およびエネルギー移動の速度定数(kt)を使用して計算されます。蛍光寿命は、速度定数の総和の逆数として計算されます。そして量子収率は、シュテルン-フォルマー消光定数(K)、二分子消光定数(kq)および寿命(t0)に関連します(Lakowicz, 2006)。
蛍光溶液に消光剤の連続希釈を加えることで、シュテルン-フォルマー消光定数(K)と二分子消光定数(kq)を見つけてPLQYを算出することができます。これは確実な方法ですが、かなりの試料調製を要するため固体試料には不向きです。
- 図22:左:9-アミノアクリジンからの蛍光を消光するアスコルビン酸ナトリウムの各濃度における蛍光励起と蛍光発光スペクトル。中央:同じ溶液についての調整と位相測定(中心)による振動数領域の寿命。右:寿命比と強度比(I/I0およびt/t0)vs.濃度。これらのプロットへの直線フィットにより消光定数が得られます。
6.3 量子収率を求めるための積分球の使用法は?
積分球法は、PLQYを測定する直接的な方法です。球体は、硫酸バリウム系材料またはSpectralon®のような全反射面で覆われ、球体の内外へのあらゆる光を取り込みます。
試料の蛍光発光(Ec)と散乱(Lc)およびブランクの発光と散乱(LaとEa)についての測定を行います。これらの2つのスペクトル測定値(試料とブランク)を用いて、図24の式よりPLQYを算出します。
- 図23:左:球体内部に試料が置かれ蛍光が測定される積分球。右:積分球の内側を覆うSpectralon®材料の反射率スペクトル(LabSphere Spectralon(R)データシート, 2017)。
ここで、Ebは球体からの間接的な発光により引き起こされる試料からの積分発光値で、Aは励起波長での試料の吸光度です。適切なスペクトル補正係数と共に2つのトレースを組み込んだ単純な計算式を使用して、PLQYおよび関連する誤差を解析します。
- 図24:積分球を用いた測定による量子収率計算式
- 図25:ブランクと試料の散乱(左)と蛍光(右)によるPLQYの計算