
ラマン分光
カーボン材料への応用[5]
さまざまなカーボン材料が,ハイテクからローテクまで広い範囲の工業製品に利用されている。磨耗コートとしての炭素フィルム,材料強度を高める複合材料としての炭素繊維,マイクロエレクトロニクスへのナノマテリアル応用の研究で注目されているナノチューブやグラフェン,その他カーボン材料は宇宙船から運動器具まで広く使われている。
非破壊・非接触で1 μm以上の高い空間分解能で測定できるラマン分光は,これらのカーボン材料評価の基礎研究のみならず,製品開発や品質管理に利用されている。ダイヤモンドやグラファイトといったカーボンの多様な同素体のラマンスペクトルは,固体物理学において非常に詳しく研究されている。
ダイヤモンドは単位胞(unit cell:結晶の周期性の最小単位)に2個の炭素原子が存在する構造をしている。C-C結合はsp3-混成軌道による正四面体を形成して,ダイヤモンド構造(Diamondcubi c)をしている。そのダイヤモンドのフォノン波数(ラマンバンド)は1332 cm-1である。グラファイトでは,炭素原子のsp2-結合による形成される平面(グラフェンシート)が積み重なった構造をしている。この平面内で,二つの二重に生成するラマン活性モード(E2g)は1582 cm-1と42 cm-1にラマンバンドを持つ。前者はGモードとして知られている。低波数のモードはグラフェンシート平面間のシェアモードで,50 cm-1以下の低波数領域を測定できる装置で観測することができる。グラファイトを細かくすりつぶすと,1280 cm-1から1400 cm-1の領域にDモード(disorder mode)が現れ[6,7],その波数は励起波長によって変化する。
カーボンの典型的なスペクトルをFigure 4に示す。炭素原子のsp2-結合によるDバンドとGバンドは,カーボンの結晶状態の違いによって変化している様子がわかる。

- Figure 4 Raman spectra of diamond(D), graphite(G), microcrystalline graphite(μG), diamond like overcoat (DC), and graphite like overcoat(GC).
グラフェンのラマンスペクトル
単層のグラファイトであるグラフェン,および数層重なったグラフェンのラマンスペクトルもまた,研究されている[8]。典型的な単層のグラフェンと多層グ ラフェンのスペクトルをFigure 5に示す。単層のグラフェンの2700 cm-1の近くにある2Dバンドは,そのGバンドに 対して数倍の強度がある。5層程度まで,層数が増えるにつれて2Dバンドに対するGバンドの強度は強くなる。これを使って,ラマンスペクトルからグラフェ ンの層数を決めることができる。


- Figure 5 Raman spectra of single layer and multi-layer graphene
Figure 6にグラフェン断片のマッピングデータから自動的に抽出されたグラフェンのスペクトルを示す。Gバンドと2Dバンドに対する比は,1層から4層まで増加し ている様子がわかる。


- Figure 6?Ruman mapping of a graphene fragment
(A)Raman imaging: The blue rectangle in video image(left)is the mapping area. Intensity distributions of 2D(red)and G(green)bands and the overlay image of two are shown in Raman images(right). Multi-colored image is score image of extracted spectra of (B)by multivariate analysis. Colors of the images are red (m1), green (m2), blue m3), purple (m4 ), yellow (m5)and cyan (m6).(B)Loading spectrum extracted by ultivariate analysis.
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顕微ラマン分光法の最新応用と装置の進歩
中田 靖
Yasushi NAKATA
株式会社 堀場製作所
開発本部 アプリケーション開発センター
科学・半導体開発部 マネジャー
博士(理学)
Emmanuel FROIGNEUX
HORIBA Jobin Yvon S.A.S
Sales and Marketing Div.
Raman Product Manager
参考文献
[ 1 ] M. Delhaye, M. Migeon, C. R. Acad, Sc. Paris., 262, 702(1966).
[ 2 ] M. Delhaye, M. Migeon, C. R. Acad, Sc. Paris., 262, 1513(1966).
[ 3 ] K. Buckley and P. Matousek, J. Pharm, Biomed. Anal., 55, 645(2011).
[ 4 ] J. Johansson, A. Sparén, O. Svensson, S. Folestad, and M. Claybourn, Appl. Spectrosc., 61, 1211(2007).
[ 5 ] F. Adar, Spectroscopy, pp.28-39, Feb 1, 2009, available online (http://www.spectroscopyonline.com/spectroscopy/article/articleDetail.jsp?id=583774)
[ 6 ] F. Tuinstra and J.L. Koenig, J. Chem. Phys., 53m, 1126(1970).
[ 7 ] Y. Wang, D.C. Alsmeyer, and R.L. McCreery, Chem. Mater., 2, 557(1990).
[ 8 ] A.C. Ferrari, Solid State Commun. 143, 47(2007), available online 27 April 2007.
