
ラマン分光
リチウムイオン電池の研究開発・製造プロセスにおける分析評価
株式会社堀場製作所 廣瀬 潤
Readout No.40 March 2013
ラマン分光による正極断面の活物質の結晶性評価
ラマン分光では,物質を構成する分子の振動モードから分子構造に関する情報を得られ,分子の微細構造変化を非常に敏感に検出できる。すなわち,特定波長のレーザー光を試料に照射すると,ラマン散乱という非弾性衝突を経て,その分子構造固有のスペクトルが得られる。リチウムイオン電池の場合にも,正極活物質の分子構造によってラマンスペクトルが異なるため,スペクトルデータを利用することにより,充放電過程に伴う結晶構造の変化に関する情報を得ることができる。
Figure 7は,充放電に伴うLiCoO2系正極活物質のラマンスペクトル変化を示したものである。充電(Liイオンの脱離)により,六方晶系構造のA1g振動モード,Eg振動モードが変化し,強度低下・波数位置のシフト・半値幅が増大することがわかる。
Figure 7 Raman spectrum changes of LiCoO2 system positive active material with charge-discharge cycle
Figure 8は,充放電サイクル試験前後の三元系リチウムイオン電池断面の正極活物質Li (Co,Mn,Ni)O2のラマンスペクトルとラマンイメージングである。充放電サイクル劣化に伴い,A1g振動モードのピーク強度が低下し,Eg振動モードのピーク強度が相対的に増加していることがラマンスペクトルより確認できる。また,このA1g振動モードのピーク強度をプロットしたラマンイメージングにより,サイクル劣化した活物質の分布を可視化することも可能である。更に,ラマン分光は,リチウムイオン電池の負極の解析においても非常に有用で,負極活物質のカーボンの構造や結晶性の違いを敏感に検出することができる。
カーボン材料の1590 cm-1付近と1350 cm-1付近に検出される振動モードは,それぞれGバンド,Dバンドと呼ばれているが,このGバンド/Dバンドのピーク強度比や半値幅を比較することにより,カーボン材料の結晶性や配向などを評価できる。同じカーボンでも結晶構造が異なるグラファイトとアモルファスカーボンのラマンスペクトルは異なるため,導電助剤と活物質を識別してイメージングすることも可能である。

Figure 8
Cross-sectional Raman image and Spectrum of Li(Co,Mn,Ni)O2 system lithium ion battery positive active material
(a)-1 Raman spectrum before charge-discharge cycle test,
(a)-2 Raman image based on A1g peak intensity before chargedischarge cycle test,
(b)-1 Raman spectrum after charge-discharge cycle test,
(b)-2 Raman image based on A1g peak intensity after chargedischarge cycle test
ラマン分光によるサイクル後正極表面の化合物分布
Figure 9は,充放電サイクル後のLiCoO2系リチウムイオン電池の正極表面をラマン分光分析した結果で,マッピングのスペクトルデータを多変量解析して分類した三つの相,すなわち,活物質であるコバルト酸リチウム(LiCoO2),導電助剤であるアモルファスカーボンおよび酸化コバルト(Co3O4)を含むコバルト酸リチウムのラマンイメージングとラマンスペクトルをそれぞれ青,緑,赤で示している。青のスペクトルには,コバルト酸リチウム由来の二本のピーク(約480 cm-1,約590 cm-1),緑のスペクトルには,カーボン由来の二つのピーク(約1350 cm-1,約1590 cm-1)が確認できる。また,サイクル劣化に伴い,コバルト酸リチウム(青)とアモルファスカーボン(緑)に加えて,コバルト酸リチウムが変質して生成したと考えられる酸化コバルト由来の二本のピーク(約520cm-1,約690 cm-1)を確認できる。
Figure 10は,in-situラマン分析用のセルである。このセルは大気非暴露測定だけではなく,密閉した状態で充放電をしながら電極のラマン分光分析が可能である。
Figure 9
Surfacial Raman image and spectrum of LiCoO2 system lithium ion battery positive electrode after charge-discharge cycle (a)Raman image,(b)-1 Raman spectrum in red(Lithium cobalt oxide including Cobalt oxide),(b)-2 Raman spectrum in green(Carbon),(b)-3Raman spectrum in red(Lithium cobalt oxide),

- Figure 10 In-situ cell for Raman analysis
廣瀬 潤
Jun HIROSE
株式会社 堀場製作所
開発本部 アプリケーション開発センター
科学・半導体開発部 マネジャー
博士(医学)
